読了本

『秘密の心臓』デイヴィッド・アーモンド/山田順子訳(東京創元社、2004)。
これを読んで思い出すのは、例えば五十嵐大介が彼の漫画のなかで繰り返し描く「この世ならぬモノが湧現する」感じ……人の世が精霊の世界にとって代わられる感じ。その象徴たる“虎”の存在感ときたら全身のうぶ毛が逆立って震えるような、獣の臭いで息が詰まって脳天がくらくらするような気がするほどだ。
うらぶれた巡回サーカスにも非日常の妖しさはあるけれど、どれほど胡散臭くても彼らは人の世の外から来たモノではない。現代の私たちはその違いに鈍感だ。よそ者と身内、敵と味方を安易に分けてはいばっている。でもいくら線を引いてみせたところで虎が遠慮するわけじゃあないんだよな、とそんなことを思った。