読了本

ことり

ことり

ことり/小川洋子
小鳥の小父さん、と呼ばれた人の一生。小鳥が好きといっても別に偏屈で人間嫌いな訳ではない。ただひたすら不器用で、人を疑わない無垢な魂は、せちがらい世の中では生きにくい。読んでいて何度もさみしくて、いたたまれなくなってしまった。終盤でメジロを助けるんだけど、まさか今日もニュースになっていたようなことにはならないよね、そこまで世間は小父さんに冷たくないよね……と祈るような気持ちだった。小川さんの小説はいつもどこかひんやりと切ないが、どこかあたたかくて救いがある。

なにごともなく、晴天。

なにごともなく、晴天。

なにごともなく、晴天/吉田篤弘
のんびりとした空気が心地よい。主人公みたいな、あるいはむつ子さんのような生活がうらやましい。が、人間そればっかりではいられない。何ごともない中にも何かが起こるのが人生だ。美子はどちらかといえば変化を望まない性格で、これまでならば向こうからアクションがないかぎり、父とも再会しないし、ひとめぼれの相手にも告白せずに終わっていただろう。平穏な生活は寂しさと隣り合わせだが、それが悪いことだとは思わない。でも店の名前を〈よっつ〉とするこれからは、違ってくるかもね。

鳥と雲と薬草袋

鳥と雲と薬草袋

鳥と雲と薬草袋/梨木香歩
地名にまつわる短いコラムエッセイ。基本的にはどこも作者にゆかりがあったり、旅したことのある土地だったりするらしい。梨木さんって鹿児島出身だったんだね(そういう匂いを感じたことはなかったので意外だった)。なので取り上げられているのはおもに関東以西。長者原の「ハギワラ」の話とか面白かった。