読了本

なずな

なずな

なずな/堀江敏幸
ドラマチックなことは何も起こらない。というか、主人公の弟夫婦が入院し、生まれたばかりの姪っ子を預かって独身にも関わらずニワカ父親にならざるを得なかったというそもそもの始まりがドラマの山場で、あとは「おいしい弁当を食べ、珈琲を飲み、甘いものを食べて、赤ん坊の排泄物を処理する」……その繰り返しなのだが、ものすごく心地よくて面白かった。波乱万丈でなくても、日々の何気ない生活が醸し出す味わいこそがドラマの本質だ。赤ん坊の世話をすることが引いては“自分を育てる”ことにも繋がるんだけど、それはやっぱり周囲の人の助けなしでは難しいわけで。ジンゴロ先生がなずなを照れ隠しのポーズ的に「七草」と呼ぶのが可愛かった。そしてとにかくご飯がおいしそう。カレーピラフもどき作ってみたい。明るい未来を感じさせるラストもよかった。もうちょい先まで書いてほしかった……でもきっと今の友栄さんは卵焼きへの拘りなんかどうでもよくなっているはず。お幸せに!