読了本

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語

日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作だとはまったく知らなかった(最後のページにそう描いてあったのでびっくり)。幻想色のある歴史ものだな……とは思っていたのだが。分かってみればなるほど受賞するのにふさわしい作品だと納得した。
住むものを異界にいざない憩わせる家をつくる建築家・泉二はちょうど『蟲師』のギンコみたいな立場でさまざまな顧客の物語と関わっていく。そのなかで泉二が“こういう建築家”になったいきさつが語られることになるのだが、あの天使たちが彼に何をさせたかったにせよ、報酬を与えるどころか犠牲を払わせるというのはあんまりじゃないかとちょっと憤慨してしまった。まあ“神は理不尽”なのかもしれないが、むしろ逆なんだったらいいなあ……。妻子の死は避けられないことだったからこそ、天賦の才を持つ彼の心が折れないよう事前に覚悟を決めさせ励ましたのだったら……。なすべき事のために犠牲が必要だったんじゃなくて、結果的に犠牲となったものが彼をなすべき仕事へと導いたのだったら。
でないと顧客の苦しみや辛さに寄り添って、心を安らがせることのできる家なんか造れないと思うのだ。ふつう恨むでしょう天使を。これは彼にしかできない仕事であり、天にやらされてではなく自らの意思でなければできない仕事で、またかつて苦しみを味わったからこそできる仕事でもあって……。なんだか卵が先か鶏が先か、みたいになってきたけど「天界の都」の章にそんなことを思ったりした。