美奥という架空の町を舞台にした連作短編集。透明感のある文章も好きだが、ほんとに恒川さんは“わけがわからないけれど、少し心魅かれる”世界を描くのがうまいと思う。分からないということは面白いことでもあり、怖いことでもある。「けものはら」には背筋が寒くなったが「屋根
猩猩」はコミカルな味があって楽しかった。「略して『バカトラ』」には
吹き出しかけたし。あの後
タカヒロは何事もなかったように普通の日常に戻っていったのだろうか、美和のことも忘れて……。ひとつだけ古い時代を描いた「くさのゆめがたり」は
漆原友紀で脳内マンガ化しながら読んだ。しみじみとした哀しさが胸に広がった。