読了本

きのうの世界

きのうの世界

二人称での物語は作家ならやってみたいと思うんじゃないだろうか。珍しいし、雰囲気も出るし、仕掛けも仕込みやすいし。……途中で「あなた」が誰か明らかになって二人称の章はなくなるんだけど、持て余しちゃったのかなあ恩田さん。「あなた」の語り手は誰だったんだろう。最終章の彼かな。伏線もあんまり投げっぱなしじゃないしオチもそれなりについていたが、小さくすぼまっていくばかりでちっとも嬉しくなかった。でもそれはミステリとして読んでるからで、幻想小説的にはすばらしいのかもしれない。
焚き火の好きな男子高校生のところはホラーっぽくてよかった。でも結局あれは気の所為でしかなかったのかな……寒暖の差とか月の満ち欠けとかが関係してるのかな、とか考えたりもしてみたが、世の中には不思議なことが満ちていて、それはただ「ある」だけだし説明つける必要も無いというのが恩田作品だから、なぜ?と追究するのは不粋かも。ていうかこの作品はほんとに恩田さんの好きなパーツを何でもかんでも集めて並べたジグソーパズルみたいなもんで、地下で根っこが繋がってるような深さはないんだな。そう割り切れば楽しめる部分もあった。焚き火のとこだけ独立した短編としてとりだしたら結構面白い幻想ホラーとして受け取れそうな気もする。