男と女、ふたつの性を行き来しながら波乱の世相を駆け抜けたひとりの
琉球人の姿を描くスペクタクル歴史ロマン。日本でいえば幕末の頃の話で、寧温として清国・
薩摩藩そして世界の列強を相手取るミ
ラクルな外交手腕を発揮しながら、世を欺く秘密と許されざる恋との狭間で苦しみつづける真鶴はまさしく「生き急ぎ」の極致。歯切れがよくスピード感のある文章で一気に読んでしまったけど、いつもの池上作品
からしたら何だかおとなしめな感じだ。沖縄の尊厳を取り戻すために歴史を語り直したいという意識が、破天荒さが持ち味である池上さんの筆を抑えてしまったのかも(じゅうぶん破天荒ではあるのだが)。史実を完全に無視できれば
聞得大君の真牛ももうちょっと暴れられたのではないか、と残念に思ってしまうのは贅沢というものか。落ちぶれてからの真牛は可哀そうで可哀そうで、今度こそ一発逆転!と期待するたびに転落していって。あのラストは真牛は満足だったかもしれないが私はひたすら悲しかった……。爽快感のあるエンディングではなかったけれど、豊富に差し挟まれる琉歌のおかげもあって美しく哀感に満ちた印象を残す物語だった。