読了本

雪の断章 (佐々木丸美コレクション)

雪の断章 (佐々木丸美コレクション)

天涯孤独の少女が不思議な縁でひとりの青年に引き取られ成長していく。その十数年間の心の綾をたんねんに描いた名作。確かに他にない作風で、熱烈なファンが多いのもうなずけた。以前たしか船戸明里がこの作品について描いてて(『活字倶楽部』?)、それからずっと興味を持っていたのに何故か講談社文庫版では挫折し続けていた。字が小さくて詰まってたからかな。今回やっと読んでしんみりとしたいい作品だと思ったが、読んでるあいだ桜庭一樹『私の男』が脳裏をちらついた。なんとなく表と裏というか、オマージュ的なものが感じられなくもない(気の所為かもしれない)。
ヒロイン飛鳥は芯の強さが災いしたかひどく頑固で思い込みが激しい。孤児であるがために受けた過去の恨みにこだわり続け、狭量なまでに潔癖である。さらにものごとや他者に対して決めつけを押し通すきらいがある。読んでてやきもきしてくるが、そんなクセのある女の子を主人公としているのにこの物語はとてもまっすぐで清々しい。祐也をはじめ他のキャラクターの個性の幅が広いのでバランスが取れているというのもある。
祐也といえば最後までユウヤと読んでたのに、巻末のシリーズ一覧あらすじにヒロヤとルビがふってあったのには軽くショックを受けた。飛鳥と祐也が互いに陥っていた呪縛は泣かせるなあ、でもこういう奥ゆかしさは今の時代にはもう廃れてしまっただろうね。舞台である札幌には先日訪れる機会があった。初夏だったので飛鳥の愛した雪の街の風情はなかなか想像しがたいけれど、あの大通り公園に飛鳥はたたずみ、レンガ庁舎を見上げたのだなあと思うと感慨深い。行く前に読めたらよかった……。
ブッキングから出てる<佐々木丸美コレクション>は魅力的なラインナップなので全巻読破したいなあ。すべての作品が何らかのつながりを持っているという壮大さにもそそられる。