読了本

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

西の魔女が死んだ (新潮文庫)

映画化するのを最近まで知らなかった。まいの祖母がイメージぴったりなので公開されたら観にいきたい。まい視点ではゲンジさんがものすごく醜悪な人のように描かれるけど、カメラ視点の映画ではごく普通の、でもちょっとガサツで無遠慮、くらいの人になっていそう。葬式のときゲンジさんに嫌悪感なしに話しかけられたのも「魔女の訓練」による心の成長のたまものなんだろうな。繊細さと過敏さ、清潔さと潔癖さは似て非なるものだから。「渡りの一日」は志村貴子で漫画化して読みたいような話。

たそがれ清兵衛 (新潮文庫)

たそがれ清兵衛 (新潮文庫)

ここには輝かしいヒーローは存在しない。人から揶揄をこめたあだ名を頂戴している平凡な男たちが、一瞬のきらめきを見せたあとまた平凡な暮らしのなかに埋没していく。そこがいい。「うらなり与右衛門」「だんまり弥助」「日和見与次郎」あたりが好き。ごく短い頁数の中にほのかな喜びとかすかな悲哀とをほどよく込めてあって心に沁みる。もっともユーモラスなのが「ど忘れ万六」。対決のさなかにも「うちのナニが」と嫁の名前を思い出せないのには思わず笑った。それにしても藤沢周平の情景描写はうつくしい。

 書類の整理を終り、日誌もつけ終って外に出ると、三ノ丸には日没後の奇妙にあかるい光があふれていた。日は落ちたものの、その余光は城の真上にひろがっている、さざ波のように細かな雲にとどまっていて、光は蜜柑いろに染まったその雲から地上に落ちて来ているのだった。
 そのために三ノ丸の建物も、人気のない広場の真中あたりもうすい光をまとっていたが、広場の隅や建物の陰には疑いもないたそがれのうす闇が動いていて、もう少したてば三ノ丸にあふれる光は掻き消えて、城内は闇につつまれることがあきらかだった。  (――「日和見与次郎」)

かなと漢字の配分も神経がいきとどいてて気持ちいいわー……。