読了本

二つの月の記憶

二つの月の記憶

岸田今日子って亡くなっていたのか。ニュースで聞いたかもしれないが、何かああいう人は永遠な感じ。それが今も消えない。実体験的な要素とエロティックな幻想がまざりあった珠玉の短編集。造本がとてもすてきだ。風変わりな活字が使われているのも異空間が立ち上がるのに一役買っている。物語は淡淡として透明感があるのにとろりと粘度が高いような雰囲気に満ちていて、とても面白かった。「P夫人の冒険」には魅了され、「逆光の中の樹」には胸の古傷がしくしく痛むような気分にさせられた。

山彦ハヤテ

山彦ハヤテ

親に捨てられ野山で暮らす少年と、お家騒動で命を狙われた若殿。人から必要とされぬ寂しさがふたりを結びつけた……。ですます調の地の文は慣れるとスピード感が出て一気に話へと引き込まれる。まあ美貌の側室候補騒ぎは何だかバカみたいだなぁと思わないでもなかったが。サムライというのは難儀だね。お伽草子の立身出世ものっぽいラストは大団円ながら一抹の寂しさをおぼえずにはいられない。山童の自由を捨て職人として自立する。だって人は尾ナシのようには暮らせないのだから仕方ない……。