読了本

私の男

私の男

不思議な読後感だ。男女の関係である父娘の物語は章ごとに時を遡っていく。そのため退廃的で陰鬱な雰囲気の第一章がほんとうは終末で、幸せを予感させる明るい感じのエンディングが実ははじまりなのだった。家族や血縁という絆の分解・消滅がテーマなのかと思ったらむしろ逆で、人間はずっとそれにとらわれて生きていくんだというのを描いてて……。奥尻の父の行為は、倫理や常識にてらせば気高い自己犠牲であるかもしれない。だがそれを憎んだ花は果たしてひねくれ者のモンスターであろうか? 家族と一緒に死ぬことを選んだ父にお前は生きろと励まされるのは呪い以外のなにものでもない。罪を犯したり逃げたりの後ろ向きで非生産的な人生は、親から押し付けられた愛という名の呪いを否定し受け入れまいとあがいたゆえだったのではなかろうか。受け入れれば平凡で幸せな暮らしを営むことができる。だがそこは讓れなかった。たとえ人の道にそむいて堕ちていくことになろうとも。一読してとてもやるせないにもかかわらず妙に晴れやかな気分も残るのは花の意思に共感する部分もあるからだろうか。淳悟のことは正直まだよくつかめない。だけど「血の人形」の呪いも時が過ぎれば効力は薄れていくのだろうしな……(それは花も同様だが)。