本日のCD

全曲集

全曲集

歌手で一番好きなのは故テレサ・テンだ。コンサートに行った事もなければCDの一枚すら持ってなかったが、他の流行り歌は忘れてもあの透明な歌声はいつまでも耳に残り続けると思う。いまひとつハマりきれなかったのは、テレサの日本語の歌のなかのベッタベタな歌謡曲の女が大ッ嫌いだったから。なのにテレサが歌うとすんごくいい曲に聴こえるんだよなー。詞の意味に気づく前に歌声にうっとりしてしまう。歌詞の生臭さを歌声が浄化するような、そんなミラクルな感じがすてきだった。それでもやっぱり不幸な日陰の女が出てくる歌より「夜来香」「何日君再来」とかが好きだったけど(日本語版ね)。
さて先日放映されたテレ朝「テレサ・テン物語〜私の家は山の向こう」。これ観たときは木村佳乃がんばってんなーと思った程度だったのに、今月8日にBS2でやった何度目かの再放送「歌伝説テレサ・テンの世界」には思いっきりファン魂を揺さぶられてしまった。だってさ、初めて聴いた中国語の歌の「月亮代表我的心」がめちゃめちゃ良かったんだもん! なにこれ!みたいな。しっとりとして愛らしくて、空にとけるような歌声で。日本語の対訳が出てて、それもすごくいい歌詞で。なるほど“アジアの歌姫”だといまさらながら納得した。こういう曲を日本語でももっと歌ってくれてたらよかったのに。
それで他の持ち歌にも興味が湧き、このアルバムを買ったわけだが、あらためて聴くとベッタベタの歌謡曲でもけっこう悪くないかも……。そういうのが分かる歳になったのだろうか。「愛人」なんて歌詞は相変わらずイヤなのに心を揺さぶられる。「ふるさとはどこですか」みたいな可愛い曲もあったのは知らなかったし、坂井泉水が歌詞を提供した「あなたと共に生きてゆく」も聴いたことがなく意外だった。妙な迫力のある「ジェルソミーナの歩いた道」は忘れがたく、「スキャンダル」は歌詞と曲調のギャップが面白い。テレサの魅力を再発見するとともに、新曲をもう聴けないことがひどく哀しくなる一枚だった。