読了本

“冗官編”ひとまず完。“タンタン編”の名はこれから活躍するキャラだと思うのでまだ取っておきたい。前巻はどうかと思ったけれど、今回のとあわせて読むとなかなか面白かった。蘇芳は株を上げるし桃色草紙や「おじさん」等の笑いどころもたっぷりだし。しかし秀麗が苦労してないというんじゃないが、これまでは為せば為る、頑張って成らないことはないみたいな猪突猛進的信条のもと話が進んでいって、だから冗官たちの尻たたいたりもするわけだけど、毎回そうだと彼女の活躍が嬉しい反面、出来すぎ?と首をかしげたくもなる。鼻につくというやつだ。――そんな歪んだ読者心理に応えてか、ついに秀麗の挫折が描かれた。
頑張りは必ずしも実を結ばない。政治の世界では力なきものは消される。そういう酷薄な現実に秀麗が直面する、まさに刃のごとき展開には額に冷や汗が浮かんだ。今までが恵まれすぎていたともいえる秀麗の周辺が変わっていく。味方のフリした敵がうようよいて、誰もが仮面をかぶって素顔を見せない貴族社会。そこに分け入っていくのだと秀麗が自覚し始めたぶん、茶州編以上にスリリングになりそうな今後の展開には期待大。“あの人たち”の想像以上の変わり身ぶりは凄まじかった……二人とも近いうちに再登場するのかな。どうでもいいけど国民証の「これは余が念写したのだ。」は何度みても笑いがこみ上げてくる。劉輝はすっかりボケキャラが定着したなあ。

乱鴉の島

乱鴉の島

江神&学生アリスシリーズだと勘違いしてワクワク読み始めたら火村ものだった……(いや火村も嫌いじゃないんだが火村の長編は他にもたくさんあるからさ。せめて学生アリスの短編だけでもまとまってくれないものか)。骨休めのつもりで民宿をめざし島に渡った火村と作家アリスは行き先を間違えて別の島に降りてしまい、しかも帰りの船は出てないため数日間逗留せざるをえなくなる。島はカリスマ作家とそのファン以外に人のいない風変わりな場所だったが、さらに招かれざる客が空から降ってきて……。以下ネタバレ気味に。

うーん。こういう奇抜なネタをミステリとして扱うなら長くて中編までかなあと思う。描きこむほど現実味がなくなりそう。どぎつい方向にいかず叙情的に終わるのはいかにも有栖川さんらしいが、宗教がらみでも金がらみでもない集まりの実態というのがどうにもぼやけた印象。女性キャラの見分けもつきにくかった。いっそのことSFミステリにするか、要所要所を引き締めて展開を早くしたらもっと面白くなったかもしれない。……冒頭で少々がっかりしたのが後をひいたのか、妙に辛口の感想になってしまった。