読了本

天国の対価―おもひでや (C・NOVELSファンタジア)

天国の対価―おもひでや (C・NOVELSファンタジア)

思い出を売る店「おもひでや」を訪れる客と風変わりな店員たちが織り成すハートフル・ストーリー。最近シリーズでも巻数ふらないものが増えてきて、これも最初は続き物と知らなかったのだが、読んでみれば店の成り立ちとか店長テンさんの過去とかジョーカーの妹姫とかクレオクレオとか伏線いっぱい仕込んであるみたいなので嬉しくなった。続編「記憶の繭」はもう出たんだね。そもそもサナギという変わった名前の少女はどういう存在なのか? 人形のように無感情なのかと思えばそうでもないし。唯一思い出売ってない回だけど「キャットウォーク」のオチには笑った。

巨石―イギリス・アイルランドの古代を歩く

巨石―イギリス・アイルランドの古代を歩く

 巨石は、数千年という時の経過に耐えた、彼らの文化の骨格のようなものだ。そこにどのような肉付きがなされていたのか、どのような衣装を纏っていたのか、知る手がかりは非常に少ない。その中で、ボイン渓谷は、最も多くの言葉を残した、それでいて、最も謎めいた都だ。それは「光の人々」とも呼ばれたトゥアタ・デー・ダナンが棲む不死の世界の伝説のように、巨石文化の黎明期に花開いた魔法の都であり、作り手の姿は内部へと続く通廊の奥の闇に消えた。(本文283頁)

美しい写真と文章で巨石文化の魅力を紹介する。ページの隅々にまで神経が行きとどいた充実の読み応え、だが私のような門外漢でも手に取って楽しめるくらいには垣根が低い。何より著者のスタンスが気持ちいい。へんに神秘寄りでもなく学者風をふかすわけでもなく、ただ「単にこの風景が好き」なのだ、と。文筆の経験はほとんどないとあとがきにあるが、オリジナルでこれだけ硬すぎずに程良く詩的な文章を書けたら素晴らしいと思う。面じゃなくて点で支えてるようにしか見えないウェールズはペントレ・アイヴァンのドルメン(テーブル状の岩)なんて本当に鳥肌ものだが、ずんぐりした岩の周囲に群れる羊とのショットはのどかすぎて愉快ですらある。スコットランドのトゥエルブ・アポストゥルズでの一枚は特に微笑ましい。

◆著者のサイト:Lithos graphics〜風景の中の石、石の中の風景
http://www.lithos-graphics.com/