読了本

八本脚の蝶

八本脚の蝶

奥歯さんはコスメや洋服や専門書や模型などを「物欲、物欲」と嬉しそうに買いあさる。私はそれらの品々に興味はないが、ページを挟んで彼女のお買い物につきあうのはとても楽しかった。長いこと気に掛けていた『氷の海のガレオン』の作者の消息をこの本で知る。あの物語でいちばん印象に残っているのは“ジャガイモ”なのだが、私はなにか別の本を読んだのかもしれない。これまでの人生で周波数を合わせられずに感受しこそねたものの多さを思い知る。ザルゆえに私はいまも生きていられるのか。鋭敏すぎた彼女にこの世はどれほど耐え難かったのか。マゾヒズムの淵に身を沈めていくのが痛々しく、死の予感に怯えつつ私は頁をめくりつづけた。奇しくも明日は彼女の命日である。

二階堂奥歯 八本脚の蝶
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