読了本

奴の小万と呼ばれた女 (講談社文庫)

奴の小万と呼ばれた女 (講談社文庫)

大阪の裕福な商家に生まれたお雪は、女にしては普通よりかなり大柄である。普通でない人間に世間の目は冷たい。思いのままに振舞おうとするにつけ「おかしな女」と決めつけられ、持ち前の負けん気からお雪はたびたび世間様に喧嘩を売った……。芝居の題材としても人気を博した女侠客の真の姿を、歌舞伎に造形の深い作者が丹念に描き出す。世間に鬼娘と呼ばれようともお雪はあくまで生身の、人一倍情の深い女であった。彼女の生き方は他人事なれば痛快で面白いが、じっさい孤軍奮闘で勝ち目のない戦にのぞむのはひどく辛かろう。自ら選んだこととはいえ、世間並みの幸せを蹴って愛した男たちがお雪に残したものは寂しさばかりであったことを思うと、ついついしんみりしてしまった。