読了本

雷桜 (角川文庫)

雷桜 (角川文庫)

赤ん坊のころ何者かに連れ去られ行方知れずになった瀬田村の庄屋の娘、遊。十年以上たってからひょっこり戻ったものの、野育ち山育ちの天衣無縫さゆえに村人からは「狼女」などと呼ばれつつも大事にされている。若い頃はなんと大名のお殿様の思い人であったそうな……。どこかロマンティックで幻想的な雰囲気がただよう異色の時代小説。人物造形に定評のある作家だが、やっぱり宇江佐さんはいいとあらためて思った。物事にとらわれないヒロインの言動に胸のすくような心地がした。困ったちゃんな斉道は十一代将軍家斉の子息という設定だが、存在自体はフィクションであるらしい。

<パーンの竜騎士>シリーズの中の一冊。これだけが特に気に入っていて折にふれ読み返す。一種の「学園もの」といってもいいだろう。虐げられ孤独に苦しむ少女メノリが自分の居場所をみつけ、才能を花開かせるまでの七日間を丹念に描いていて、何度読んでも感動する。それに登場人物たちの個性的で魅力的なこと! 私の頭の中ではロビントン師からシルビナから、みな萩尾望都の絵で動いている。一度タイムテーブルを作ってみたいのだけど、いつもひと息に読んでしまうから果たせないままだ。そしてシリーズの最初から読み返そうと思いつつも、やっぱりこの本ばかり手にとってしまう。面白いシーンがたくさんあって、はじめての四重奏、ショナガー師の特訓、市での乱闘シーンがとりわけ好き。