迷走する愛のゆくえ

また今年も父の趣味、干し柿づくりにつきあう季節がやってきた。
知り合いからもらってきた400個の渋柿の山。まずは全部の皮をむかなければならない。でも今年は秘密兵器があった。その名も「回転式 自動リンゴ皮むき機」。どんな大きなリンゴもあっというまにむいてくれる優れものなのだ。が、柿のヘタが硬くて固定針が刺さらない。しかも平たくて凹凸のある実の形に刃のカーブが合わない。つまり柿には応用できない、という事実が判明し、秘密兵器は無用の長物と化した。
しかたなく菜切り包丁でむき始める。10個もやらないうちに腕が疲れ、肩が凝ってくる。包丁は重いので長く持つのは辛い。だが我が家にはぺティナイフがなかった。刺し身包丁やパンきり包丁はあるのに。前から不便だと思ってたんだよ。1000円札をポケットにつっこみ、閉店まぎわの近所のドラッグストアへ駆け込む。たしか台所用品も多少おいてたはず。目的のものは確かにあった。果物ナイフ、税込み1038円。買えないじゃん。しかもなんでそんなハンパな値段なんだ。
苦し紛れに華奢な野菜用ピーラーを使うことを思いついた。試してみるとたいへん快適で、包丁で一晩かかるところをちゃっちゃっと1時間で作業終了。柿のヘタにヒモをかけ、去年父が作った「柿干し器」につるしていく。窓枠にビスを打ち横にヒモをかけられるよう改良したもので、さらに今年は「回転式干し柿台」なるものまで作っていた。干し柿への愛ゆえに、普通にのれん様に下げるのでは満足できないらしい。
晴れた日は物干し台を占領し、雨が降れば部屋を占領し、扇風機2台をフル稼働させて乾かし中。去年は雨が多くてカビたりしたので、今年は一気に干し上げてしまおうというわけ。最近はニュースでも干し柿作りの様子が紹介されている。あんぽ柿を作る農家ではやっぱり皮むき機を使っていて、父は食い入るように観ていた。仕組みを解明し、来年までに自作する野望を胸に秘めて。……つきあいきれーん。