奇妙な追いかけっこ

よく晴れた朝だった。私はまっすぐな田舎道を機嫌よく運転していた。私の他には前に一台、走っているきりだった。と、何かにぶつかったわけでもないのに前の車の後輪のホイールがぽこっと外れて転がり、側溝にはまった。私は軽くクラクションを鳴らして前の車の注意をひこうとした。気づいてないようなので教えてあげようと思ったのだ。前の車は止まるそぶりすら見せなかった。
おーい、どうしたんだよーと思いながら私は後に続いた。行く方向がずっと同じだったからだ。窓から手を出して振ろうが、ぷっぷぷっぷとクラクションを鳴らし続けようが、前の車はまったく「我関せず」状態であった。そのまま2キロほど走っただろうか、私は目的地に到着した。やれやれ、お節介もここまでかな。
すると前の車は奇遇にも私の目的地である駐車場に入っていく。ならば停まるのを待って伝えようと後に続いた。だが前の車はだだっ広い駐車場をぐるぐる回るばかりで、空きがあっても駐車しようとしない。そのまま5分も追いかけたろうか。ようやく停まった車から降りてきたのは初老の女性だった。諦めと怯えがないまぜになった表情だった。
私もようやく理解した。変な女につきまとわれ、難癖をつけられようとしている――と思われていることを。「あの、ホイール外れましたよ」と指さしたときの相手の表情の変化こそ見ものだった。「あらまあっ。ちっとも知らなかった、このまえ修理に出したばっかりだったのに」。ホイールが落ちた地点を教え、感謝されつつ私は立ち去った。
バックミラーに映った私の人相、そんなに悪かったのだろうか。