読了本

消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)

消えた女―彫師伊之助捕物覚え (新潮文庫)

このまえ藤沢周平展に行ったとき展示内容のいくつかはこのシリーズに関連していた。代表作のひとつと言ってもよかろう。海外ミステリ&ハードボイルドの香りがする江戸市井もので、抑制のきいた筆致と緻密な構成が読み手をひきつけてやまない。けっこう色っぽいシーンも多い。下卑た感じはないし他の時代小説と比べてもささやかすぎるくらいだが、これも藤沢周平の一面ではある。いまだ過去の傷が癒えない主人公の独白に、時に作者自身のおもかげが重なるような気がした。