読了本

逃亡くそたわけ

逃亡くそたわけ

今回の直木賞候補作。……え? 芥川賞じゃなくて?(以下略) ふたつの賞の垣根ってあるようでないんだな。しかしなかなか面白かった。躁病の“花ちゃん”と軽い鬱病の“なごやん”が精神病棟から抜け出し、ポンコツ車で九州を縦断する。山あり谷ありクスリあり、間の抜けたなごやんが川で溺れかかったり、無免許の花ちゃんがヤクザの外車につっこんで逃げたりの珍道中。せっぱつまった状況なのにどこかのほほんとした空気が漂っているのは花ちゃんの使う福岡弁のせいかもしれない。亜麻布二十エレは上衣一着に相当する。って幻聴がなんだか読んでるこちらにまで聞こえてきそう。

イトウの恋

イトウの恋

イトウの恋/中島京子
冴えない中学教師・久保の実家に眠っていた古い文書は明治時代に活躍した人物の回想録だった。クラブ活動の研究史料にしようと喜び勇んで子孫の女性に連絡を取ったところ、事態は予想外の方向へ……。埋もれた過去が時を得て現代の人々を動かし結びつけていく不思議さに打たれて一気に読んだ。手記の続きを探す現代パートはコミカルなミステリ風、イトウこと伊藤亀吉が綴る過去のロマンスは切なくも愛しい。手記に登場するI・Bはイザベラ・バード、Dは高橋阿伝と思われるが最後まで実名は明かされない。あくまでもフィクションだということかもしれない。が、実在した彼女たちの背景も知っているとより物語の深みは増すと思う。といっても私には、先日読んだ東洋文庫イザベラ・バード極東の旅』と杉浦日向子ニッポニア・ニッポン』収録の「夢幻法師」で得たわずかな知識しかないのだけど。