読了本

風神秘抄

風神秘抄

日本の歴史時代を舞台にしたファンタジーの4作目。今回の舞台は平安末期で、へぇ軍記物仕立てなのかぁと戦の悲劇に没頭していたから、第一部第一章のラストで驚かされたのなんの。作中の言葉で言ったら“拍”をつかむのがさすがに巧い。また今ちょうど大河ドラマでやってる「義経」の世界とリンクしているのもたいへん感慨深い。大河の義経は正直いって退屈でしょうがないんだけど、荻原さんのおかげで新たな楽しみが見いだせそうだ。いけずな三郎頼朝や後白河院を観ながら「お前らなんか草十郎と糸世の舞と笛がなかったら……」と心の中で説教したりとか。
美津の生んだ義平の子というのは史実ではどうなってるんだろうか? 等々を調べる楽しみもある。あとがきの参考文献は読んでみたいな。『精霊の王』は面白そうだ。ただラストで糸世が行った異界の正体が明らかになるところはちょっと蛇足かもしれない……どこでもない、いつでもない時空を超越した場所でよかったのではと思う。でもシリーズのなかでは本作がいちばん好きだ。草十郎と糸世は荻原キャラのなかで個人的にベストカップル。ふたりのその後が気になる。物語の時代がどんどん下りつつあるが、いつか中世のまっただなかも書いてくれるのだろうか? それにしても鳥彦とか足立とか聞いちゃったらシリーズの最初から読みかえしたくなるねえ。

◆「子どもの本だより」著者紹介 荻原規子
http://www.tokuma.co.jp/kodomonohon/kodayori/kodayori067.html


アースダイバー

アースダイバー

大昔の関東はもっと海が内陸まで入り込んでいたそうだ。現代東京の地図の上に洪積層と沖積層を塗り分けた“縄文地図”を載せてみる。すると歓楽街などのある猥雑でウエットな土地柄はたいてい昔は海だったところだし、例えば皇居や神社などがある特別な場所はかつてミサキやサカイといった神聖な地形だったりするのが分かるのだ。中沢さんの考察はせいぜい江戸時代くらいまでしか遡らないので食い足りない部分もあるけれど、縄文や弥生の遺跡は沖積層にはほとんどなく、かつての水辺に沿うように残っていたりするので地図を眺めているだけでも面白かった。