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百物語 (新潮文庫)

百物語 (新潮文庫)

“不思議なる物語の百話集う処 必ずばけもの現われ出ずる”……百物語ってこういうものだったのかと、あらためて自国の文化を誇らしく思った。背筋の凍るほど恐ろしくてエグくてショッキングで、思わず絶叫してしまうような話である必要はまったくないんだね。“ばけもの現れ出ずる”という表現にも、心臓がとまるほどの恐怖とか不幸なことが起こって後悔するとかいったニュアンスは感じないし。しかも九十九話で語り仕舞って“有り難う”でしめる。江戸の人(と、杉浦日向子)は怪異に対する礼節と引き際をちゃんと心得ていたのだな。現代人ならもっと野暮なことをするだろう。百話めを甘く見たり虚勢を張ったり高を括ったりしては痛い目に遭う、それが百物語という怪談のオチだったりするからなあ。江戸から平成に到るまでのどこかで<あやかし>との付き合い方を忘れてしまった私たちが、いつか再びこういう<粋>を取り戻せる日はくるのだろうか。