読了本

国書刊行会ウッドハウス・コレクション1『比類なきジーヴズ』とは内容がかなりダブっている。今後も2社でダブり続けるのなら読み比べもできていいかもしれない、が。『比類なき』を読んだときはくすくす笑いっぱなしだったのに、何でかな? 『事件簿』で読んでもあんまり可笑しくないのだ。筋を知っているせいもあるとは思う。「白鳥の湖」などの初めて読む話はけっこう面白かったし。でも訳文のセンスがちょっと……なんというか、言い回しが古くないか? バーティが「いよっ」とか「がってんだ」とか江戸っ子みたいなしゃべり方をするのも違和感あるし、ユースタスは「大統領っ!」なんて一昔前に流行ったような持ち上げ方をするし。クロードの「八十島かけて漕ぎ出でんと人には告げよってやつでね」にいたっては、イギリス人に和歌を引用させるのはやめてくれーとか思っちゃうわけだ。いかに状況にそぐうとしても。
装丁・装画は文春版のほうが確かにおしゃれなんだけど、訳文は森村たまきのほうが雰囲気があってテンポも良くて好きだなあ。『比類なき』で特にインパクトのあった「さかな顔」と「ドレッシーな紫靴下」のシーンは『事件簿』だといささか精彩を欠くきらいがあるし(解釈も微妙に違う感じ)。森村訳のいかにも上流階級の坊ちゃんらしい、育ちは良いがどこかまぬけなバーティが気に入っているから、ちょっと品のない(あるいは“粋でいなせでいささかやくざな”)印象の岩永・小山訳によけい引っかかりを覚えてしまうのだろうか。森村訳をノリが軽すぎる、訳がこなれてないと感じる人もいるだろう。とりあえず古参のファンには文春版、新規読者には国書版をおすすめしておく。ヘタかウマいかというのではなくて好きずきの問題になるかと思う。