読了本

新装版 隠し剣孤影抄 (文春文庫)
『隠し剣孤影抄』藤沢周平(文春文庫、1983)。
凄まじき秘剣を持つ者たちの姿を描いたシニカルで哀しい雰囲気の連作短編集。剣とは畢竟、人を斬り殺すための技なんだよなあ……。「宿命剣鬼走り」の救いのなさなど読んでて胃の腑がねじれるように辛い。こういう暗さも藤沢周平の持ち味。好きとは言わないけど何故か惹かれる。7つの短篇のうち「隠し剣鬼ノ爪」は映画化もされた。「鬼ノ爪」もそうだが他の“隠し剣”、たとえば「松風」や「鳥刺し」等々どれも絶妙のネーミングで感心する。ちなみに物語の舞台は海坂藩である。
どの話も胸にせまるものがあるが、いちばん好きなのが「女人剣さざ波」を遣う邦江。と書くそばからじわっと涙がにじむ。こういう女心わかるなあ。貞女、賢妻っていうんじゃなくて、わざわざ「去り状を頂きます」と言った気持ち、そのあとに流す涙がもう、愛しくて切なくて。唯一ハッピーエンドらしき話だが、ほかのがどれも悲惨な結末を迎えるのにと怪しむにつけ哀しい後日譚を想像せずにはいられないのだった。だってあれだけ怪我が重いんだし。せっかく思いが通じ合ったというのに……。
秋に世田谷文学館で「藤沢周平の世界展」が企画されているとのこと。どんな催しになるのだろう? まだその世界の一端しかのぞいていない身ではあるが非常に楽しみだ。
世田谷文学館 http://www.setabun.or.jp/