読了本

麦屋町昼下がり (文春文庫)藤沢周平(文春文庫、1992)。
時代小説短編集。藤沢周平は男女の心の機微を剣や政治の添え物にしないから好きだ。この人の描く恋愛はとにかく可愛い。れっきとした大人同士なのだが、そこはかとなく微笑ましい。表題作の敬助と満江しかり、「山姥橋夜五ツ」の孫四郎と瑞江しかり。どこか初々しく端正で、頑なかと思えばユーモラスで。特に好きなのが「三ノ丸広場下城どき」の男やもめ重兵衛と出戻り怪力女の茂登、そして「榎屋敷宵の春月」の生真面目な人妻田鶴と風流児三樹之丞の組み合わせだ。いやはやラスト数ページには燃えた、というより萌えた。なんでそこで田鶴を押し倒さないかなあ三樹之丞! じゃなくて、この控えめさ、奥ゆかしさがこたえられないのである。