読了本

松本清張傑作短篇コレクション〈中〉 (文春文庫)
松本清張傑作短篇コレクション 中』宮部みゆき責任編集(文春文庫、2004)。
中巻のテーマは「淋しい女たちの肖像」と「不機嫌な男たちの肖像」。宮部さんの前口上を読んでからだと各短篇の印象もかなり変わってくる。「書道教室」は中編といってもいい長さなのだけど、主人公の男のちょっと妄想入ったつぶやきには読んでてイライラさせられてしまって、先に宮部さんが怒ってなかったら本を放り投げるところだった。松本さんの短篇はどれも畳み掛けるように盛り上げておいて、さいごの最後でストンと落っことすからまるで夢から覚めたような心地だ。その最たるものが「空白の意匠」だなあと思った。

味覚旬月 (ちくま文庫)
『味覚旬月』辰巳芳子(ちくま文庫、2005)。
料理研究家のエッセイ集。一月の“小豆仕事”、六月の“梅仕事”というのは綺麗なことばだ。最近は歳のせいか、何だかもうピザやチョコパフェなどにはあまり食指がうごかない。さっぱりとしたうまみのあるたべもののほうが好ましいのだが、この本を読んでいるとどれもこれも食べてみたくて仕方がなくなる。秋茗荷と穂じそを混ぜた大根おろしに青ゆずと醤油を落としたのとか、厚手鍋に一気に流し込んで寄せ焼きにする厚焼き卵とか。しみじみ美味しそうだ。厚焼き卵と梅シロップのレシピ、正月の煮しめの頭を使った炊き方はメモしたのでこんど自分でも作ってみようと思う。

三谷幸喜のありふれた生活3 大河な日日
『大河な日日 三谷幸喜のありふれた生活3』三谷幸喜朝日新聞社、2004)。
脚本家の日常エッセイ集。ヒネてるんだか素朴なんだか分からない妙な味のある文章がおもろい。朝日夕刊をとってはいても、実は「新選組!」にはまるまで掲載されているのも知らなかった。平たく言えば読まずに飛ばしていた。もったいないことをした。この巻はタイトルほどに大河率は多くなく、旬の話題はどちらかといえば同じ香取君主演の「HR」。でも作者にとって大河をやるのは子ども時代からの夢だそうだから、日々これ準備期間だったといっても過言じゃないのかも。次の巻こそ大河の渦中のはずだが、どういうタイトルにするのだろう?
物議をかもした「先輩漫画家に貶された」回も入っている(単行本では削られるのじゃないかと心配した)。該当の文章をネットで読んだときは私でさえ血が凍ったのち沸騰するような気持ちになったものだ。そこを逆手にとってネタにしてしまうのだから三谷さんもW辺T子とは違った意味で意地の悪いひとだ、とこれは好感をこめて言うのだが。作者はこうも書いている。「今は、確かに風当たりもつよいけど、来年の暮れの頃には、近藤勇といえば、香取慎吾しか思い浮かばなくなっているはず」。まさしく、放送開始当時は新選組びいきのアンチ「組!」だった私がそれを体現してしまったのだからなあ……。