読了本

マンモスハンター (上) エイラ 地上の旅人(5) (エイラ 地上の旅人)
『マンモス・ハンター 上 』ジーン・アウル作/白石朗訳(集英社、2005)。<エイラ 地上の旅人 5>。住み慣れた谷を離れたエイラとジョンダラーは“マムトイ族”ライオン簇の長タルートに出会い、一族のすまいへと招かれる。巻ごとに訳者が変わるスタイルには多少不安を感じていたが、白石さんの訳はさすがに読みやすく、するすると頭に入る。性描写だけでなく全体的に記述が増えてるように思うのだが、気の所為? 洞穴熊と書いてケーブ・ベアと振りがながふってあるような配慮も旧版読者には嬉しい。簇は旧訳だとキャンプだった。やっぱり旧・中村訳から入った人間にとっては“らしゃかきぐさ”が“鬼なべな”になってることや、エイラがライダグに「きみ」と呼びかけるシーンなんかに違和感があるんだけれど、旧・百々訳に比べればまったく問題はない。エイラはじゅうぶん魅力的だ。しかし上巻はすっごくいいとこで切れてるねえ。続きが読みたくてたまらなくなる。巻末にエイラが使う薬用植物についての注記をのっけてくれるといいのにな。

船宿たき川捕物暦
『船宿たき川捕物暦』樋口有介筑摩書房、2004)。
純文現代小説の書き手と思ってノーマークだった作家の時代もの。これが意外と良かった。もともとの樋口ファンも捕物帖が出て驚いたようだけど、私も驚いたよ。めっちゃ隠し玉ですよ。めっぽう腕が立ってハンサムな浪人者、性格も人当たりもよく実は高貴の生まれかと噂される……そんな男を主人公に持ってきて嫌味もなくこれだけ楽しめる物語に仕立て上げるのはさすがに芸達者だ。江戸時代のうんちくの盛り込み方も面白いし、展開も先が読めなくて飽きさせない。“たき川”の秘密には椅子から飛び上がったし、タイトルの意味は読み終わってみればなるほどと思うし。続編が出ないかなあ。もっと読みたい。倩一郎が「ほーう」って何度も相づち打つのだけ、キャラ立ての試みなのか作者の書き癖なのか、最近の時代ものの流行りなのか時代考証の結果なのかとけっこう悩んだ。どうなんでしょうか樋口さん。

龍のすむ家〈2〉氷の伝説
『氷の伝説 龍のすむ家II』クリス・ダレーシー/三辺律子訳(竹書房、2004)。
いじらしくも神秘的な、陶器製の生きた龍たちがたくさん出てくるライトファンタジーの続編。龍のイラストがとにかくおちゃめで可愛い。翻訳版はこれがあるだけでも儲けものだ。本編は新キャラ続出で、この話こんな展開になっちゃうんだと慌てたほど。北極を舞台にしたサガは雰囲気あって正直びびったし、続編を意識した結末も気になる。ネコのボニントンや隣人ベーコンさんも今回は大活躍。デービッドは相変わらず頼りないけどね……なぜ奴がこんなにモテるのだ。比喩としてダンブルドアが出てきたけど、イギリスじゃハリポタはすっかりスタンダードなのか。龍はアーサー王伝説がモチーフになってるけどシロクマはライラシリーズも連想させるし、現在過去にアンテナ張っていいとこ取りしてるような印象も。次はどんな手でくるのかと楽しみだ。