読了本

新装版 よろずや平四郎活人剣 (上) (文春文庫) 新装版 よろずや平四郎活人剣 (下) (文春文庫)
よろずや平四郎活人剣藤沢周平(文春文庫、1985)。
上下巻の連作短編集。2003年に新装版が出て読みやすくなった。タイトルは何やら厳めしいけれど内容は案外ユーモラスだ。藤沢さんってこんな風にそこはかとなく面白い文章も書くんだなあ。宮部みゆきもこの作品が好きで、『ぼんくら』『日暮らし』の主人公・井筒平四郎はここから名前をもらったのだと「IN・POCKET」のインタビューで言っていた。
ときは幕末、の一歩手前。市井で「よろず揉め事仲裁業」を営む神名平四郎は二枚目にはなりきれないが三枚目というほどでもない気楽な浪人者である。腕は立ってもどこか抜けており、ちゃっかりしているかと思えば義理堅い。カタブツの長兄・監物には頭があがらず、もと許婚・早苗の行方も気に掛かるが、目下の夢は親友・悪友とともに道場をひらくこと。要するに愛すべきキャラなのだ。すったもんだの末に迎えたラストがほのぼのと光がさすようで気持ちが良い。意外にも翻訳家・村上博基の巻末解説がとても面白かった。本編と比べても見劣りしない解説はけっこう珍しいものだ。