読了本

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ1 園芸家12カ月 (中公文庫)
『沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一』夢枕獏徳間書店、2004)。
勝手に前後編だと思っていたらもう4巻まで出ているんだな。謎の妖物が跳梁跋扈する唐の都・長安へ留学僧としてやってきた若き空海。猫が祟る怪異の裏にある“何か”に徐々に深入りしつつ、密を盗むという壮大な野望のために足場を固めていく。おおらかでいて策謀家、気さくでありながら強烈なカリスマ性を持つ空海が今後どう動くのかとても気になる。唐代オールスター総出演なのかな、との期待も膨らむ。
しかしもともと引き立て役として出したのかもしれないが、いまひとつ才気芳しくない橘逸勢がちょっと残念だ。空海もなんだか得体が知れないし。でも出会う人が皆「すごい人だ」と慕ってしまうので、いささかむずがゆい。怪異だけではなく霊験もひんぱんに描かれるのが意外だった。鳳鳴との法力くらべ(?)とか。ホラー色はまだしもサイキック風味はあまり好きでないので今後の展開が楽しみでもあり不安でもあり。個人的には歴史的な部分にいちばん魅力を感じているのだけど。

『園芸家12カ月』カレル・チャペック/小松太郎訳(中公文庫、1975)。
私が園芸家のはしくれになってから早一年。この本はバイブルとしてたまに読み返す。“緑のゆび”を持って生まれてきた人ばかりが園芸家ではないのだと励まされるからだ。ホースと格闘してずぶぬれになり、土を耕そうとして球根をこまぎれにし、霜が降りればおろおろし、嵐が来ればいてもたってもいられず、枝にびっしりついたアブラムシを気味悪がり、場所もないのにかたっぱしから苗を買ってくる、そんな間抜けで懲りないヘンな人種が園芸家なのだとみずからを笑いとばして今日も庭に向かうのである。