読了本

『時の町の伝説』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作/田中薫子訳(徳間書店、2004)。
タイムトラベルを題材にした異色ファンタジー。第二次大戦下のロンドンっ子ヴィヴィアンは田舎に疎開する途中、人違いで未来都市「時の町」にさらわれてきた。冒険気分の悪ガキたちに引っ張りまわされるうち次第に彼女も大いなる冒険の渦に巻き込まれていく。すべての伏線がつながり謎が解かれるラストがとても面白かった。ジョーンズは悪役を描くのがうまい。高カロリーそうなバターパイやアンドロイドのエリオなどの小道具もいい味出してた。けど「時の町」がどうにもイメージできない。時間の流れはあるのに歴史からは切り離された(でも干渉はしてる)存在ってどういうことだろ? まあそれが説明されたらSFになってしまうのかもしれないけれど。

昭和天皇の妹君 謎につつまれた悲劇の皇女』河原敏明(文春文庫、2002)。
事実をたんたんと綴った読み物が欲しくて書店に出かけたらフェアの平台に置かれたこの本が目に入った。上品な老尼僧が実は隠された大正天皇の皇女であり、三笠宮の双子の妹である……という噂を追った渾身のルポ。文章も綺麗で読みやすかった。スキャンダルやゴシップとして取り扱うのではなく、双子が忌み嫌われた因習の根深い時代に生を受けた皇女がいたこと、秘密を抱きながらも清らかに日々を送ってきたことをただ世に知らしめようとする著者の誠実な姿勢に好感を持った。ずっと隠してきたものをほじくり返される方々にはいい迷惑だったろうが。しかし終盤の静山尼の一言は大層ドラマティックだ。非常に効果的だからこそ「これはあくまで読み物なのだなあ」と改めて思わされる。