読了本

闇に香る嘘

闇に香る嘘

闇に香る嘘/下村敦史
第60回江戸川乱歩賞受賞作。中途失明者の生活と心理、そして中国残留孤児の過去と現在というふたつの線が絡み合う。構成は巧妙で思わず夜更かしイッキ読みするくらいには面白かったが、目が見えないなかで兄が偽物かもとの疑惑を調査しようとするのは、ひとつには臓器移植で娘の歓心を買おうという思惑があったからなんだよね。このやや利己的な主人公が迎えるオチがちょっと、個人的にはぬるいかなーという感じ。あと、登場人物が戦争の生き証人揃いで平均年齢かなり高めなはずなんだけど、主人公をはじめ全体的に20歳は若く感じた。そもそも作者が若い人なので、今後に期待したい。

ゴースト≠ノイズ(リダクション)/十市
いじめの延長で、クラスの中で幽霊のように扱われている男子高校生。ひょんなことから同級生の女子と話すようになるが、それがいっぷう変わった子で……。あれ、ファンタジー? と思わせておいて、終盤でそうきましたか! 養父母のことはもうちょっと凄みを出せたんじゃないかなと思うけど(後日談もやや軽すぎる印象)、たぶんそれは描写力というか、表現力の問題なのかもな。読みやすくてサラッとした文章なので。でも主人公が勘ぐった方向に行かなかったのはよかった。