読了本

天地明察

天地明察

天地明察冲方丁
日本における正確な暦の作成をめぐる人々の熱きドラマ。時代小説としての粗さゆるさは多少ありつつも「これを描きたい」という気迫に満ちていて、とても読み応えがあり面白かった。視点はいちおう主人公・渋川春海の頭のてっぺんから動かないものの、この“神”は現代の感性で語り進めていく(のでL字形の廊下、という表現が普通に出てきたりする)。著者初の時代小説ということだが、たまたま書きたいテーマの舞台が江戸初期だっただけで、今後も時代ものの執筆を続けていくわけではない……のかな。また書いてほしいな。
春海の妄想体質というか幻覚体質には何度も笑ってしまった。とくに光国に惨殺される!と震え上がるところ。光国、ラオウ様かなんかかよと思わずつっこんだ。フワフワっと大らかな春海のキャラ自体にはそれほど魅力はないのに、ほかの人物とからむと絶妙な味が醸し出されるよねぇ。村瀬、建部、保科、酒井といった目上の人々、道策や泰福などの年下のものら、ライバル関そして女たち……。それぞれ読後に反芻して楽しめるくらいよかった。えんとの縁は切れないんだろうと予想はしていたけれど、関とともにどん底にいる春海を掬い上げるように登場してきたのはニクい演出だったな。