読了本

リヴァトン館

リヴァトン館

リヴァトン館/ケイト・モートン
思っていたより歯ごたえがあったのと、突発的な事態が多くてなかなか読み終わらなかった。でも面白かった。
語り手がホームズを愛し、のちにクリスティにハマるメイドということで途中までちょっと誤解していたが、ミステリ的な要素はあっても「そういう話」ではなかった。今は歴史の流れに沈んだ人々の人生を掬い上げ、ふたたび日の目を見させるのは痛みもともなうけれど、かつての熱い血潮をよみがえらせることでもある。読むほうはひたひたと迫りくる悲劇の予感におののきながら、それがすでに何十年も前に起こった出来事であるのに安堵しつつ、秘密が明かされようとしてることにわくわくする。人の不幸は蜜の味と楽しむことに似て罪深いこの行為から解き放たれるから、この重い物語の読後感が意外なほど爽快なのかもしれない。読書の喜びとは何故かくもマゾっ気と背中合わせなのであろうか。
またグレイスが過去に激しく傷つき、後悔しつづけたのだとしても、それに囚われっぱなしにはならず彼女なりに懸命に生き、生きることをやめず、背負ってきた重荷を愛情に昇華させたうえで人生を全うしたからこその読後感でもあると思う。しかし一度危ない橋を渡って他人に秘密をさらしたのだから、またこういうことがあるかもと予測して勉強しておけば、参考書の1冊も手元に置いておけばこんなことにはならなかったのになぁ……後に勉強して真実を知ったのだろうけど……。ただ後からならいくらでも気が回るんであって、その時はできなかったし、やろうと思いつくことすらなかった。人生ってそういうものだ。でも失敗したところで投げ出したら本当にそこで終わりなんだよなぁ、としみじみ考えた。