ライトノベル読みにもお薦めな時代もの!

なまくらどもの記録さんの「おすすめ町人もの」と、趣味の店・空想堂さんの「ライトノベル読者にオススメしてみたい歴史・時代小説。」に触発されて私も選んでみました。
素敵なイラストつけてライトノベルレーベルに入ってても見劣りしないしぜったい面白い! と思う作品を挙げています。すでにオススメされているよろずや平四郎活人剣」「泣き虫弱虫諸葛孔明」「みをつくし料理帖シリーズ」などは私も強力にプッシュしておきたいのですが、今回はそれ以外からひろってみました。ハッピーエンドで、ラブが楽しめるものが多いかも。読者層が広がることで新しい書き手も増えるといいなーと思っています。

まずは大御所から


「まんぞく まんぞく」「ないしょ ないしょ」池波正太郎
前者は男装の女剣士・真琴の成長物語、後者は仇討ちのため武芸を磨くお福の半生記。剣客、鬼平、梅安とどれも傑作で順序がつけられないほど大好きですが、まったく池波さんを読んだことのないライトノベル読みがためしに手をつけてみるならこのあたりがいいかなぁ……と。さくっと読めますし、時代ものってこんなのもありなんだ! と思ってもらえれば嬉しい。真琴は池波作品のトップヒロイン・三冬のプロトタイプですかね。
まんぞく まんぞく (新潮文庫) ないしょないしょ―剣客商売番外編 (新潮文庫)


「獄医立花登手控えシリーズ 全4巻」藤沢周平
藤沢周平をオヤジだけに読ませておくのはもったいない、もっと若者たちにも読んでもらいたい〜。地味だし暗そうと言われることが多いのですが、そんなことはありません。明るくコミカルな雰囲気のものも結構あって、「よろずや平四郎活人剣」もそうだし、医師見習いの青年が主人公のこれは人情ものとアクションもののいいとこ取りのような良作なのです。ほんわかラブコメ風味には思わず笑みがこぼれることうけあいですし、道に迷い悩む主人公にも共感できると思います。
新装版 春秋の檻 獄医立花登手控え(一) (講談社文庫) 新装版 風雪の檻 獄医立花登手控え(二) (講談社文庫) 新装版 愛憎の檻 獄医立花登手控え(三) (講談社文庫) 新装版 人間の檻 獄医立花登手控え(四) (講談社文庫)


「海坂藩大全 上下」
もうひとつ藤沢さんで。代表作といわれる長編群には手が出にくいかもしれませんが、実は短編にも読後感すっきりの味わい深いものがごろごろしているのです。海坂藩という架空の土地を舞台にした作品を集めたアンソロジーが先ごろ出ましたので、試すには手ごろかと思います。表紙、渋いですねー。でもでも、いいものばっかりが集まっています。「竹光始末」「花のあと」が特に好き。強気なババさま最高。
海坂藩大全 上 海坂藩大全 下

中堅どころから


「千両花嫁 とびきり屋見立帖」山本兼一
このまえ直木賞を受賞した山本さんの、これはとびきり可愛い市井もの。幕末の京都を舞台に、古道具屋をいとなむ新婚夫婦のらぶらぶっぷりが楽しめます。舞台が舞台なので古美術ファン・歴史ファンにも面白いつくりになっていますが、なにも知らなくても真之介とゆずのがんばる姿にどきどきわくわくできます。シリーズ化しており「オール讀物」に続編がたまに載ります。
千両花嫁―とびきり屋見立帖 (とびきり屋見立て帖)


「余寒の雪」宇江佐真理
宇江佐さんは当たり外れが大きいというか、ちょっとなぁ……と思うようなところがなきにしもあらずなのですが、これは可愛くて良いです。というか男勝りな娘が出てくるってだけでもう問答無用に楽しかったり(笑)。時代ものには男装の麗人がけっこうよく出てきますよね。好きな人が多いんだなあきっと。短編集なのでいろんな味わいが楽しめるのもよいところ。同じ作者の雷桜男装の麗人ものです。
余寒の雪 (文春文庫) 雷桜 (角川文庫)

中国ものから


「神国崩壊 探偵府と四つの綺譚」獅子宮敏彦
架空王朝ものですが割と史実に沿っています。朱光と朱炎というタイプの違う凄腕美女に補佐されるとっぽい若様、というハーレムもの的な図式に「ガガガ文庫で出せよ」と最初はつぶやいてしまいました。血湧き肉踊る歯ごたえ硬めな歴史ミステリの具を、少年向けラノベ風のうまうまパンに挟み込んだボリュームがっつりホットサンド、って感じですかね例えるなら。原書房ライトノベルレーベルがもしあれば、そちらから出ていたかも分かりません。
神国崩壊―探偵府と四つの綺譚 (ミステリー・リーグ)


「ディー判事シリーズ」バート・ファン・ヒューリック著/和爾桃子訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ
オランダ人の著者はとっても博識で、唐代を舞台に辣腕判事とその配下たちが事件の謎を解く本格ミステリを書きました。ディー判事の八面六臂の活躍も見ものですし、部下たちとのチームワークには萌え、いや燃える! さらに色っぽいムードも堪能できます。イラストも著者の手になるもので味がありますが、ライトノベル絵師の美麗イラストがついたら……と妄想するのも楽しい。長らく絶版だったぶんも新訳でポケミスに入りました。現在14冊。私もいまだ読破できていません。シリーズ1作目なら「沙蘭の迷路」、ディー判事が扱った最初の事件なら「東方の黄金」ですが、私がとくに面白かったのは以下のものでしょうか。
北雪の釘 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1793) 白夫人の幻 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1789) 南海の金鈴 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) 雷鳴の夜 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


碧血剣 全3巻」金庸
金庸は中国の歴史活劇「武侠もの」を確立した人です。ライトノベル映えするのはやっぱし『神ちょう剣侠』だよなぁ……とは思うのですが(個人的にいちばん好き。純愛ものだし)、三部作の中編なのがネック。『碧血剣』は単品としては最もまとまりが良く、日本ではちょっと見ないくらい痛快なピカレスクロマンなので、読めばぜったい引き込まれるはず。必殺技のオンパレードがハンパないです。そもそも金庸は萌えの宝庫なんですよ、ツンデレとか幼馴染みとか男装少女とか。某所の金庸スレだってラノベ板にあるくらいですし。
碧血剣〈1〉復讐の金蛇剣 (徳間文庫) 碧血剣〈2〉ホンタイジ暗殺 (徳間文庫) 碧血剣〈3〉北京落城 (徳間文庫)

西洋ものから


「夜明けの風」ローズマリー・サトクリフ
ローマン・ブリテン・シリーズをはじめとしたサトクリフの歴史ものは主人公と同年代のティーンエイジャーにこそ読んでもらいたいなあと。岩波少年文庫に入っている作品はちょっと硬めなのですが、灰島かり訳のこれとケルトとローマの息子」はとても瑞々しい翻訳なので読みやすいです。といっても展開はまったく甘くないのですけれど……。登場人物たちの強さに生きる力みたいなものをもらえると思います。ほのかな恋愛色があるところもいいですし、犬好きの心の琴線にふれる描写がたくさんあります。
夜明けの風 ケルトとローマの息子


「わたしの黒い騎士」リン・カーランド
13世紀イングランドを舞台にしたヒストリカル・ロマンス。ラズベリーブックスは翻訳ロマンスレーベルです。海外にはコバルトとかビーンズとかないから、向こうでこういうの描きたい人はロマンスや児童書に混ざって出すしかないのかもな、と思うとちょっと不憫。ロマンスものにはあるまじき朝チュン作家で、往年のロマンス読みにはぬるすぎると不評な向きもあるのですが、逆にそこがライトノベル読みにおすすめする理由でもあります。こう、心と心の触れ合いが……泣かせます。ホワイトハートとかで出てればもっとふさわしい読者層に届くのにな。
わたしの黒い騎士 (ラズベリーブックス)