読了本

食べ物日記―鬼平誕生のころ

食べ物日記―鬼平誕生のころ

池波さんは毎日の食事内容を丹念に記録した「食べ物日記」を十数年も続けていたそうだ。その一部、「鬼平」誕生直前の1年分がこのたび公開された。メニューは日々違っていて品数もかなり多い。食道楽で健啖家の夫を満足させるのは奥さんも苦労したんだろうなあ。気に入らないときは「まずし」のひとことで済まされていたり。そこは池波さんも分かっていたようで、しばしば奥さんも伴って外食したり旅行に出たりで楽をさせてあげている。覚え書きのような記述も残してあり、映画「ロミオとジュリエット」を観たときは「新しくて、そして古格をふまえている。時代小説もここを採らねば……。」と書いている。鬼平等創作の根っこにあった思いかもしれない。
同時収録のエッセイ「鵠沼の夏」は子母沢寛との交流が爽やかに綴られていてよかったが『食卓の情景』でも読めるもの。単行本オリジナルならば実際に池波さんの元担当で日記にも名前が登場する編集者3名の座談会「我らが青春の日々」がとても面白いので池波ファンなら読んで損はないと思う。池波さん、意外とおちゃめだ。「お苑とくっつけよう」には思わず笑った。