読了本

新世界より (下)

新世界より (下)

下巻に入るともう恩田陸っぽいとは感じなかった。これが貴志作品か……血なまぐさい光景も、目を逸らしたくなる事実もためらいなく描くんだねえ。それでいてあまり悲惨さを感じさせない、読み手をしんどくさせない丸みがあるのが不思議。酸鼻を極めるような場面も何か読みやすくてどんどん行ってしまう。どこか寓話的な雰囲気があるからかもしれない。それにしても単なる脇役だと思っていたバケネズミがここまでクローズアップされるとは思いもよらなかった。ありそうな未来像だ……。上下巻を通して地底に潜る場面では異様に濃いムードに満たされていたこと、異形の生き物を次から次へと描写する作者がとても楽しそうだったことが印象に残った。ものすごく面白かったので他の貴志作品も読んでみよう。

牢の中の貴婦人 (創元推理文庫)

牢の中の貴婦人 (創元推理文庫)

えええええ、こんなところで終るの!? と目が点に。物語はいきなり「牢のなかに囚われた女性の手記」から始まるんだけど、書き手のエミリー嬢は現代のイギリス人で、なぜか異世界に来てしまったところをとある貴婦人の身代わりに幽閉され、右も左も分からない状態らしい。読んでるほうも背景をまったく知らされないまま、彼女が同じ虜囚の身である貴人とのほのかなロマンスを育てていく成り行きを見守ることになるのだが……。なんつーシビアなオチだろうこれは。衝撃的。ジョーンズは初期作品から展開をひねりまくってて、しかもかなりシニカルな方向に話を持ってく傾向があったんだなあ……と感慨深かった。