読了本

お腹召しませ (中公文庫)

お腹召しませ (中公文庫)

時代ものの短編集。斜籠(はすかご)という忍者そこのけな意味不明ハードアクションの稽古をさせられる若き殿様の物語「安藝守様御難事」に腹を抱えて笑った。驚いたことに史実に基づくらしい。謎が深まるごとにおかしさがこみ上げてきてもう大変だった。勲さまとお末さまの話、またどこかで書いてほしいなあ。勤番侍の神隠しが最後には壮大なホラ話と化す「大手三之御門御与力様失踪事件之顚末」もおかしかった。どちらも短編ならではの面白さだ。そのあとのはネタが尽きたかあまりパッとしない出来だったが……。とくに「江戸残念考」のヤケクソっぷりは『憑神』を思わせた。

ミステリイベント「箱の中の殺意」の紙上再現が意外なほど楽しかった。実際のイベントはさぞかし盛り上がったんだろうな。日本文学のなかの鉄道にまつわる謎を追究した「田園を憂鬱にした汽車の音は何か」は『田園の憂鬱』を読んでなくてもちゃんと楽しめる洒脱なエッセイ。収録元の『「坊ちゃん」はなぜ市電の技術者になったか』には同様の謎が8つも収められているとのこと。面白そう。先日新潮文庫に入ったばかりだから読んでみよう。海外ものでは「4時15分発急行列車」がゾッとする怖さでよかった。