読了本

美女と竹林

美女と竹林

「これはいったいどういう内容の連載なのか、説明したまえ」
「ありていに言えば、私が竹を刈りつつ、竹林にまつわる想い出のあれこれを書いてゆくという、エッセイと言うのも後ろめたい、じつは嘘八百を織り交ぜたヘンテコな文章なのです。そんなものを書くのは生まれて初めてのことですから、どのように書けばよいのか見当がつかず、悩んでいるうちにまた竹林を刈にゆく時間がなくなったという次第です」(『森見登美彦氏の弁明』)

事実なんだか妄想なんだか分からない、人を食ったような霞を食ったような書きっぷりが何となく内田百けんとかぶる。森見さんは百けんが好きなんだろうな。錦の喫茶店の屋根裏で繰り広げた竹ウンチク込みの机上の妄想が楽しかった。あと「アイガモ農法をまねてパンダを放せ」には笑った。森見氏の思いつきに文句も言わずつきあう明石氏はいい人だ。嫁を大事にする男・明石氏に春がやって来ますよーにと祈らずにはいられない。

島原の乱つながりで。「街道をゆく」は最近ワイド新装版が出た。長く愛され続けているシリーズである。この巻も「週刊朝日」連載時が1980年だからもう30年近く経っている文章だけど、いま読んでも面白いし古びた感じはしない。現在の道をたどりつつ過去の歴史に思いを馳せるスタイルなのでこれ以上古びようもないが、やはりただの紀行文とは一線を画している。リソサムニュームの話とか、エピソードの持ってきかた、話の組み立て方がさすがにうまい。