読了本

出星前夜

出星前夜

読みはじめて驚いた。これはもしや島原の乱がテーマ? ちょうど前の日に、古屋兎丸の新刊『インノサン少年十字軍』が面白そうなのでモデルとなった少年十字軍について検索し、ウィキのリンクなどをたどって島原の乱や日本のキリシタンに関する記述にも目を通したばかりだった。
この乱はたんなる宗教戦争ではなく長らく民に強いてきた悪政のつけがまわったために起きたこと、いまだ戦国の気風を残し徳川政権も安定したとはいいがたい時代であったことなどについて知識を入れていたおかげか、この長大な物語をさほど混乱せずに読みとおせたが(地理については後から調べた。地図がついてるとよかったな)、蜂起軍が原城跡に立てこもってからの救いのなさはしんどかった。統率のとれてないアホな討伐軍がどれだけやっつけられても、同じ国の民どうしで潰しあってることには変わりなく、篭城している側も最後には全滅するのが分かっていたから。
ジェロニモ(天草)四郎もわりとアホの子に描かれてたのは意外だった。宗教は苦しみを癒す心の支えにもなれば、人を思考停止に陥らせやすいものでもあるのだなあ……。流れに逆らうことがもはや叶わないとき、理性を保ち続けている者は辛い。南目衆を率いる鬼塚監物とか長崎から派遣された陳継光とか。後者の登場は悲惨な戦場において一服の清涼剤でもあった。「こんな狂人を誰が呼んできたのかと皆青ざめた」には思わず笑ってしまったが、本当はこの場で最もまともな判断力を持った人間だったという皮肉。

檸檬 (新潮文庫)

檸檬 (新潮文庫)

短編集。頽廃、鬱屈していながらもどこか甘酸っぱく瑞々しいのが何故だか居心地悪く、なかなか読みおわらなかった。昭和文学史上の奇跡なのか……。平成の中高生だとこういうところは一瞬で通り過ぎていきそう。というか、そうならざるをえない時代ではあるので。「Kの昇天」「冬の蠅」「交尾」などの幻想的で静かな雰囲気を持つ作品は好きだった。桜の樹の下には屍体が埋まっている、って梶井基次郎だったのか。