読了本

「なまみこ物語」は一条帝の中宮定子を中心にした歴史絵巻。幸せな人というのがいるのではなく、幸せな心を持ち続ける人がいるというだけなのかもしれない。そう思うにつけ裏ヒロイン・小辨のくれはが哀れ。エッセイ「源氏物語私見」のおもしろさは源氏物語のおもしろさでもある。光源氏と縁のあった女君たちの個性ゆたかさ、そして展開の波乱万丈さには舌を巻く思いだ。ラブロマンスだけでなく涙あり笑いあり友情あり、ホラー、芸術論、政治サスペンス、哲学などさまざまな側面を盛り込んであって飽きることがない。さすがだねえ。
といっても私の源氏物語知識は「あさきゆめみし」が基本で、エピソードごとに大和和紀絵が脳裏に浮かび上がってくるほどかつて愛読したんだけども、やっぱりいつかは原文に挑戦してみたいよなー……。でもまずは円地文子の口語訳で通読するのがよさそうだ。「なまみこ」での擬古文はかなり分かりやすいのに、源氏物語の本文引用となるとほとんど意味がつかめない。言葉のちがい以上に平安時代人との感性のへだたりは大きいような気がする。