読了本

海の底

海の底

突然変異の凶暴なモンスターから逃れるため、潜水艦に閉じ籠ることを余儀なくされた自衛官と子どもたち。『空の中』よりも特撮怪獣もの色が強いが、十五少年漂流記が大好きな私には自衛隊三部作のなかで最も面白かった。正式な軍隊をもたない日本が舞台ならではのパニックアクションとしても興味深い。どう決着がつくのか気が気でなく、すでに『クジラの彼』を読んでいなかったら先に結末を覗き見していたところだ(これは私の悪いくせのひとつである)。圭介がドニファンのポジションなのはすぐに気づいたけれども、その屈折はより現代的で根が深い。ラストの盲目的に女王エビに群がるレガリスの姿が母にスポイルされ続けてきた圭介と重なった。危ういところで明暗が分かれたよなあ……。

鉄塔武蔵野線

鉄塔武蔵野線

先ごろソフトバンクから完全版asin:4797342641が出たが、単行本と文庫では結末が書き改められていると聞き最終章(9章)を読み返してみた。エピソードに違いがあることは確かだけど、白昼夢的なのはあまり変わらないような。しかも文庫版のほうが面白いように思う。単行本のほうはよりメルヘンチックだ。でもやっぱり最終章は蛇足に感じられる。なくていいなあ、あとわずかってとこでの挫折上等だよなあと。ただそれは少年の日の旅の思い出をテーマと見、鉄塔の存在がそのままファンタジーである私にとっては、であって鉄塔をこよなく愛する作者には最終章こそが重要だったのだろうし、大人と子どもが秘密と喜びを共有しあうところにファンタジー性を見出していたのかなぁ……とも思う。