読了本

つばき、時跳び

つばき、時跳び

百椿庵と呼ばれる熊本の古い屋敷には美女の幽霊が出る、とその家に暮らしてきた女たちがいう。縁続きで駆け出し作家の惇は半信半疑で気楽な独り暮らしを始めるが……。タイムスリップ・ラブロマンス。幕末人のつばきが現代に来るのみならず、現代人の惇も幕末に行くことになるのだが、それは奇妙な縁のなせるわざで。お前それでも男かっ、と叱りつけたくなるくらい奥手な惇と奥ゆかしく可憐なつばきに悶絶していたら、ものすごくいいところで話は終わってしまうのだった。その先をこそ読みたいのになあ!!

凝りに凝っていながらも苦労はまったくかいま見せることなくあっさりと披露する、粋で洒落た作風が楽しめるアンソロジー。内容は決して少年少女向けではないのだけれども。トリック勝負な短編が揃っているが、キャラを立てたシリーズものだとどうなんだろう。亜智一郎が主役の時代小説作品が前から気になっているんだよなあ。何はともあれ、解説で紹介された著者の多才多芸ぶりこそが謎めいていてファンタスティック。