読了本

死にかけた経験のある清兵衛が参加するようになった「話の会」とは実際にあった不思議なことを皆で語り合う集まりである。怪談の会とちょっと違うのは怖さを愉しむのではなく、起きた怪異について冷静に意見交換し身を慎む糧となすための会合だという点。あまりおどろおどろしく描いてないほうがいつまでも心に残って恐ろしいな……「首振り地蔵」にはぞっとした。最終話の怖さも格別だ。怖さと寂しさは同じもの、という甚助の言葉が胸に沁みる。読みごたえがあってすごく面白かったんだけど、興味本位じゃなかったからこそ向こう側に行ってしまった話の会の仲間たちのことを思うとほんとに寂しくなる。参考書目に『新耳袋 現代百物語 第六夜』があがっているのはどういう関係があるのかな。

首 (角川文庫)

首 (角川文庫)

表題作をふくむ4本を収録した短編集。等々力警部もダンディで好きだけど、太鼓腹の磯川警部が出てくる岡山の話はやっぱりいいなあ。“推理の積み木細工”を組み立てていく面白さが味わえるという点では「首」が、次いで「花園の悪魔」が秀逸だと思う。あと「首」は啓一坊やがかわいい。死美人と蝋美人はエログロ色が濃いので好みがわかれそうだ。

ガーンディー自叙伝〈1〉―真理へと近づくさまざまな実験 (東洋文庫)

ガーンディー自叙伝〈1〉―真理へと近づくさまざまな実験 (東洋文庫)

東洋文庫〉の一冊。マハトマ・ガンジー自伝の日本語訳はいくつかあるけれど、この本の特色はガンジー母語である「グジャラーティー語」原本からの全訳であること、そして「ですます調」で訳されていることだ。母語とですます調のコンボは語り手の肉声と穏やかで礼儀正しい人柄をよく伝えているのだろうと思う。なんだかお爺ちゃん(といってもこの頃はまだ50代前半らしいが)の昔ばなし、ときに武勇伝を聞いている孫のような気分になって、近寄りがたかった偉人にぐっと親近感がわく。若いときは結構おばかなこともやってたんだなーと。ちなみに上巻での彼はまだインドの人々のために奔走しはじめたばかりの若者である。