読了本

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

ぼくのメジャースプーン (講談社ノベルス)

誰かにひどいことをされたら人は復讐を考える。殺しても飽き足らぬほどの悲憤、慟哭――大人ならば激情と理性の狭間でもがき苦しんだり、または冷酷に罰を下してのけたりもするだろう。ところが本編の主人公は気持ちの優しい子どもである。考え方がシンプルで甘くても当然だし、たとえ特別な“力”を持っていようと、いつも冷静な“先生”の導きもあるので仕返しはいくぶん紳士的なものになるんじゃないかな……なんて思っていた私はまんまと一本背負いをくらった。話作りのさじ加減の巧みな作家だなあ。クライマックスの意外性と話の落としどころのうまさに脱帽。

惜別 (新潮文庫)

惜別 (新潮文庫)

太宰文学にはほとんど親しんだことがないくせに、何となく陰鬱なイメージばかりを持っていたのだが……太宰さんごめんなさい私が不勉強でした。太宰の「右大臣実朝」に奇想天外な幻想を注ぎ込んで『安徳天皇漂海記』ISBN:4120037053月原晴明の力量には感服したが、元になった作品の高い完成度にも魅了された。理想化された実朝よりも相州どのの凄みと公暁カニのほうが印象的だったが。史書に記された庭を横切る青女や浮かばぬ船などの不思議な逸話がここでは単なる怪異としてさらっと描かれているのに『安徳天皇漂海記』のほうでは一応合理的な説明がつけられているのも興味深い。「惜別」はかつての学友が語る若き日の魯迅の思い出話。熱っぽくユーモラスな語り口がとても面白く、展開はドラマティックで、終わりのほうではいつしか涙ぐんでいた。解説もかゆいところに手が届くようで分かりやすかった。