読了本

QED 鬼の城伝説 (講談社ノベルス)
霧の果て―神谷玄次郎捕物控 (文春文庫)藤沢周平(文春文庫、1985)。
この前読んだ「よろずや平四郎」にくらべるとかなりダークでアダルトな話。主人公の性格や身分からして正反対だもんなあ。素浪人・平四郎は能天気で健康的なスケベだったけど、北の定町廻り同心・玄次郎から漂ってくるのはニヒルな自堕落さと妖しいエロス。捕物には冴えた勘と技を見せるが、家族を見捨てた役所を信じることができず、お勤めをさぼっては女色にうつつを抜かしている一匹狼なのだ。もともと同心の扱うような事件は凄惨でやりきれないものばかり、犯人を捕まえても「めでたしめでたし」では終わらない。人は誰しも被害者になりうる。ひとたび凶行が身に降りかかれば何も知らなかった頃には戻れない。残りの人生にはいつまでも不安と哀しみが付きまとう。……だからこそこのラストは胸にしみた。どこか投げ遣りに生きてきた玄次郎に対する作者の共感といたわりを見たように思った。

『QED 鬼の城伝説』高田崇史講談社ノベルス、2005)。
今回の舞台は岡山、お題は桃太郎伝説吉備津の釜。中盤を過ぎてもなかなかタタルが登場せず寂しいような物足りないような気持ちだったが、出てきたら出てきたで相変わらずこじつけめいた説をとうとうとぶちあげるのがウザかったりして。タタルの歴史観はそう悪くないけれど、強いて言えばそうとも取れるって程度で裏づけも乏しいんだもの。吉備は鬼避から来てる、とか言い切られても素直にはうなずけない。それともこのシリーズはトンデモ本として楽しむもんなのだろうか。百人一首のときのような衝撃はもう味わえないのかな。残念だ。