読了本

禁じられた楽園 夏の名残りの薔薇
『禁じられた楽園』恩田陸徳間書店、2004)。
淡い美しい色彩のカバーイラスト。花でも散らしてあるのかと思ってよく見たら恐ろしく不気味なものが描かれていた。それもそのはず挿画は藤原ヨウコウ……。作中に登場するインスタレーション(という現代美術用語を初めて知った)の情景だろうか。捷と律子が熊野に呼び寄せられてからの展開は真夜中に読んでいたせいもあり凄まじく怖かった。屋根に積もったぼたん雪が「ぼとっ!」と落ちるたびに飛び上がったりして。そうこうするうち物語はどんどん現実離れしていく。ラストはなんだかあんまり恩田陸らしくないような。愛を語るのって恩田作品から一番遠いような気がしていたので、妙にうさんくさく思えてしまった、のは私がすれた読者だからか。うさんくささは恩田さんが意図したところなのかもしれないけど。
(追記)クライマックスにおける違和感の元は、響一が屈したのは「至上の愛」ではないだろうということ。香織から感じるのは愛というより支配欲だ。すべてを呑み込む母の放つ強力で抗いがたい欲望。響一は支配することには慣れていたが、その逆にはウブかった……? もしそうなら熊野の神が世界に及ぼす影響はとてつもない脅威となるのでは。そのかみのイザナミの再来となるのかも。

『夏の名残りの薔薇』恩田陸文藝春秋本格ミステリ・マスターズ、2004)。
“嵐の山荘”ならば事件が起こるのはお約束。語り手が次々と変わっていくたび死者が出る。だが章が移ると、前に起こった事件は“なかったこと”になっているのだ。何故なのか、そして本当はなにがあったのか。先に読んだ『Q&A』を思い起こさせる作りである。キャラクター性も希薄で記号化されている感じ。大量に引用されるのは映画『去年マリエンバートで』のシネ・ロマン、というのは脳内上映の活字版らしいのだが、これがばりばりの翻訳文でとても読みづらかった。とばしてしまおうかと思ったくらいだ。でも本文と引用のからみあうラストはけっこう良かった。耐えた甲斐があった。どちらかといえばこういうホラー・オカルト描写のない話のほうが好みだ。上流階級ものはちょっと苦手だけれど。芝居化したらはったりもきいて面白くなりそうな気がする。