フロドとサムの絆について[ネタバレ注意]

前にも書いたが第3部のサムはとても“けなげ”で思わず涙を誘われる。家に帰れといわれるとき、シェロブにフロドが殺されたと思ったとき、フロドが西に去ろうとするとき、サムはよるべない子どものような顔で泣くのだ。とくに灰色港でのサムは見ていて胸が痛くなるほどだった。これまでのサムは面倒見のいいお兄さん色のほうが強かった気がするのだが、いつの間にか自然とフロドを兄のようにいちずに慕うしっかりものの弟のようになっていた。フロドが逆にいたずら坊主のような子どもっぽさを失いどんどん老成していくから、その反動というか演出的なバランスを考えてのことなのかもしれないが。
さて、滅びの亀裂が大噴火を起こし、絶体絶命のふたりがシャイアを思い出すくだり。最初観たときは何故いきなりサムが「結婚するならロージーとだった」と泣くのかぴんとこなかったものだ。フロドは指輪の重荷がなくなってすっきり晴れやかな顔なのに。でも3度目に吹替で観てやっと合点がいった(にぶいねえ)。
もともと最初にホビット庄を話題にしたのはサムだ。美しい風景、美味しい食べ物(初物のイチゴにクリーム!)、かつて二人が共有していた平和な空気。指輪が消えてやっとフロドはその記憶を取り戻す。何の影にも脅かされなかった時代の一番最後の記憶があのビルボの誕生祝いだったので、フロドの思いは自然とそこへ戻っていったのだろう。誰もが楽しんだ陽気なパーティの思い出。だがサムの胸をチクリと刺すのは、あのころ勇気がなくてロージーに告白できなかったことだったのではないだろうか。ダンスのときも緑竜館でも、もじもじして行動を先延ばしにしてしまった。
ロージーが恋しくないといったら嘘になる。でもフロドに同行したことは後悔していない。ただ、かつての自分のふがいなさだけが悔しい。なんであんなにいくじなしだったんだ? たった一つの心残り。それで男泣きしてしまったのだろう。そしてそんなサムの心もすべて分かったうえで、いたわるように言葉をかけるフロド。何度見てもここは感極まって涙が出てしまう。だからこそシャイアに戻った後の結婚式の場面がとても嬉しく思えてしまうのだ。