読了本

一路(下)

一路(下)

一路 下/浅田次郎
田名部藩が武士の面目をかけた古式ゆかしき参勤道中。本気の時代錯誤が生み出すものを滑稽ととるか、あるいは感動的と受け取るか。浅田さんは敢えてギャグっぼく描くことで疎かにしてはいけないものもあるのだと伝えたかった、のかなぁ……。でもわざと感動をはぐらかすようにしてる感じもあるし。将監の最期なんか、あっさり軽いのがかなりシニカル。そこには勧善懲悪の爽快感はない。御殿様も、現代の庶民の感覚からすればとても名君とは思えない。確かにうつけ者ではないが、民に見せる慈しみと君主としての自覚がかみ合ってない。ブチだって果報どころか、泥舟に乗せられたも同じじゃないか……。すべてにおいて、だから何なんだと正直思った。最近話題の「保育園落ちた日本死ね!」じゃないけど「忠義がどうした徳川死ね!」って誰も思わないのが不思議。いや、尊皇攘夷派が思ってたんでしょうね、この物語には一人も出てこないけれど。だから何だかとてもいびつな小説に思えた。群像劇に見えて、偏った視点しか出てこない。これは歴史ものじゃなくて、徳川家という武士の箱庭が舞台のおとぎ話なんだと思う。御殿様が夜な夜な聴いてた軍記ものと同じなんだろうと思う。故にこれを読んで胸を熱くするのも別段おかしなことではないのだ。思考停止した愛すべきおバカさんたちの物語、と私は思うけど、これは現代目線で見るからだ。