深夜の訪問者

夢うつつに玄関の呼び鈴が鳴った気がした。寝ぼけまなこで窓から外を覗いてみると、若い男女が身振り手振りで何かを知らせようとしている(これは後で隣家のご夫婦とわかる)。なんだぁ? とメガネをかけてよくよく見ると、家のまん前で車が横転してるではないか!
時計をみると深夜3時。玄関ドアの向こうには40代くらいの男性が立っていて、恐縮しながら「夜分遅くに申し訳ありません、実はお宅の敷地に車を突っ込んでいろいろ壊してしまいまして、そのご相談にあがったんですが……」という。
いいいいつの間にそんなことにっ。慌てて家族を起こしに行くと、チャイムが鳴ったのも知らずに熟睡してた。まぁ私も事故の音すら聞こえなかったのだが。実際はそうとう大きな破壊音がしたらしく、それでお隣さんが驚いて飛び出してきたのだ。大丈夫かいな我が家は、いつか誰かが外で「火事だー!」とか叫んでても寝コケたまま焼け死ぬんじゃないか。
同乗者がいなかったのが幸いして怪我人などもいないようだ。すぐにJAFが呼ばれ、横倒しになって道をふさいでる車をロープで吊って起こし始めた。しかし狭い住宅街の道路では角度をキメるのが難しいらしく、傾いては滑り、起きそうになってはまた転がるをくり返すばかり。
実力伯仲した力士ががっぷり四つに組んだままなかなか決着がつかないみたいなのを手に汗握って眺めていたが、私は明日も仕事だからと後を家族に頼んで寝る努力をした。車体がアスファルトガリガリこすられる音が響いてとうてい眠れなかったけど。
夜が明けてから聞いたところによると、事故ったのはご近所さん。深夜の外出から帰って家族を自宅前で降ろし、少し離れた駐車場へ車を停めに行くわずか数百メートルの間にうっかり居眠りをして、突っ込んだところがちょうど我が家の庭先、スピードは出てなかったもののブロックにひっかけ、テコの原理だかでコロンといった、らしい。
なんであんなカーブでもないまっすぐの、街灯もついてて明るい道で事故るのか、猫でも飛び出してきて避け損なったのか? と思っていたら……ほんとに一瞬の油断だったんだろうなぁ、やっと帰れたー、ようやく眠れるー、と気が緩んだところで。
「警察は呼んだの? でないと保険も下りないでしょ」と家族に聞いたら「呼んでない。保険は入ってないらしい」だって。ひえぇぇぇぇ。まあウチは縁石やら庭木やらがちょっとひしゃげて、植木鉢がいくつか割れたくらいだから別にいいけどさ(いいのか?)。少しズレてたら他の車や電柱なんかにぶつかって、もっと大事になってたかも。
朝日の下で見ると漏れたオイルや割れたガラスが道路に散乱して、けっこうソーゼツな雰囲気だ。自動車事故って怖いな、とあらためて思った。で、睡眠不足のままマイカーで出勤してきたわけですが……こっちが居眠り運転しないよう気を付けないと。